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けん玉理論~練習すると見えてくるもの

やってみてわかる世界

レッスン中に、生徒さんがピンと来ていないなと感じる時があります。あるいは、私の話をただ聞くだけで一生懸命理解されようとする姿を見るとき。そんな時に思い出すのが「けん玉理論」の話です。

大学3年の時に副科でクラリネットを受講していました。ピアノ以外の楽器についてもっと知りたいというのがきっかけでした。鍵盤を下げればとりあえず音は出てしまうし、ピッチも自分で調整する必要のないピアノという楽器に比べ、他の楽器は一定の音を出すこと自体がそれほど簡単ではありません。クラリネットは大して吹けるようにはなりませんでしたが、音を作り出すことへの意識を高めたことが、ピアノで音を出す際にもより意識して良い音を求めることにつながったと思います。

副科とはいえ、教えて下さったのはクラリネット科の教授でした。考えてみれば、本科ならその先生に学ぶために音大を受験する人もいるのですから、そんな先生に未経験(!)から教えてもらえたとはなんとも贅沢な、あるいはもったいない話ですね。私にはとても楽しい時間でしたが。先生も元々ご自身が高校の時はピアノ専攻だったそうで、ピアノ科の学生と話すのも面白かったのでしょうか。いろいろと雑談するなかに、興味深い話をしてくださいました。

学生にまず、やったことのないけん玉を持ってこいというのだそうです。そして、けん玉の技を見せてどうしたらそれができるかコツを話します。コツを聞いてもけん玉をやったことのない学生には何のことだかわかりません。それで1週間、技ができるようになるまでけん玉を練習してくるようにいいます。1週間後、けん玉ができるようになった学生に技のコツをきくとちゃんと理解しています。けん玉を手にして、できたりできなかったりを繰り返して何度も何度も練習しているうちに、先生から聞いたコツが腑に落ちる瞬間がくるのです。それが技をものにする瞬間です。最初、先生はできている地点から見て話しているので、その地点にいない学生には同じ景色が見えていないため当然わかりません。1週間練習した結果、先生が何を見て話していたかがわかるようになったわけです。わかる地点までいく、そこまで試行錯誤してとにかくやりぬく、それが練習だということ。練習とは何かをわからせるためにまずけん玉をやらせる。年月が経っているので細部が違っているかもしれませんが、そんなお話でした。名付けて「けん玉理論」というのだそうです。

やってみてわかる、というのは楽器に限らず物事の習得には共通した話だと思います。言葉で理論的に説明されても、自分の中にそれを裏付ける感覚がなければ本当のところはわかりません。感覚を身につけるにはやってみること、実践を重ねるしかないわけです。

なぜけん玉なのか(笑)わかりませんが、ちょっと楽しくて、程よくむずかしいのがいいのかもしれませんね。