そしてアリスはバッハの話をする

そしてアリスは、バッハの話をするのだ。

なぜ、あのようにたくさんのすばらしい曲を作ることができたのかとたずねられたバッハは、答えたそうだ。

「仕事を熱心にしたからです……わたしのように一生懸命仕事をしたら、だれだって成功できます」
それに続けて、アリスは言うのだ。
「この言葉は、どんなことを教える教師にとっても至言です。とことん仕事を愛すること、練習を愛すること、ぴかぴかになるまで台所を磨き上げるのを愛すること、そういうことを教えなさい。よりよいものにすることを好きになり、学ぶ過程を愛すること、仕事は楽しいものだと学ぶことが大切です。仕事によってすばらしいものが得られるし、仕事そのものがすばらしいものだからです。仕事の結果得られるごほうびがあるからだけではありません」
 ー「アリスの奇跡」よりー
何年か前に、尊敬するピアニストから教えてもらった本です。
アリス・ヘルツ=ゾマーは戦前のチェコに生まれたユダヤ人ピアニスト。将来を嘱望されたピアニストでしたがナチスにより強制収容所に送られました。過酷な収容所生活を音楽を支えに生き延びて、戦後はエルサレムとロンドンでピアノ教師として暮らしました。つねに音楽を通して周りの人々を励まし、癒し、豊かにして、110歳で天寿を全うされました。
世の中にはこんな素晴らしい生き方ができる人もいるのかと感銘を受けました。音楽家にもそれ以外の人にも、勇気を与えてくれる本だと思います。